資産
査定
通達
通達等の示す基準に従えば,長銀においては,平成10年3月期 - 10 - の決算について5846億円余りの当期未処理損失があったと認められるところ, 被告人らは,いまだ数千億円にも上る未処理損失があることを認識しながら,上記 の自己査定基準に基づき,当期未処理損失を過少の2716億円余りとする平成1 0年3月期決算を策定して取締役会等で承認しており,本件虚偽記載有価証券報告 書提出罪に関する故意の存在及びその共謀の成立を認めることができ,また圧縮し た数千億円にも上る未処理損失を考慮すると,株主に配当することができる剰余金 は存在しないのに,被告人らはこのような事情を認識しながら,虚偽の内容を記載 した財務諸表及び利益処分計算書等を取締役会等で承認した上で,株主総会に提出 して承認可決させ,株主への配当を実施しているから,違法配当罪に関する故意の 存在及びその共謀の成立を認めることができる。
4 しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。
その理由は, 次のとおりである。
(1) 原判決は,前記3のとおり,平成10年3月期の決算の当時においては, 資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準に基本的に従うことが唯 一の公正なる会計慣行となっており,改正前の決算経理基準のもとでのいわゆる税 法基準による会計処理では公正なる会計慣行に従ったことにはならないというもの である。
しかしながら,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準は,金 融機関がその判断において的確な資産査定を行うべきことが強調されたこともあっ て,以下に述べるとおり,大枠の指針を示す定性的なもので,その具体的適用は必 ずしも明確となっておらず,取り分け,別途9年事務連絡が発出されたことなどか らもうかがえるように,いわゆる母体行主義を背景として,一般取引先とは異なる - 11 - 会計処理が認められていた関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に 関しては,具体性や定量性に乏しく,実際の資産査定が容易ではないと認められる 上,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準が関連ノンバンク等 に対する貸出金についてまで同基準に従った資産査定を厳格に求めるものであるか 否か自体も明確ではなかったことが認められる。
すなわち,記録によれば, ア改正後の決算経理基準は,前記2(10)記載のとおり,回収不能と判定される 貸出金等に関する償却ないし引当,最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が見 込まれる貸出金等に関する必要額の引当,これら以外の貸出金等に関する貸倒実績 率に基づき算定した貸倒見込額の引当などについて定めているが,それ自体は具体 的かつ定量的な基準とはなっていなかった。
イ資産査定通達についても,定性的かつガイドライン的なものである上,同通 達において初めて導入された債務者区分の概念は,例えば「破綻懸念先」の定義に おいて,「(中略)自行(庫・組)としても消極ないし撤退方針としており,今 後,経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる先をいう」として,母体行主義の もとにおける関連ノンバンク等に対する貸出金についてこれまで採られていた資産 査定方法を前提とするような表現が含まれているなど,関連ノンバンク等に対する 貸出金についての資産査定に関してまで資産内容の実態を客観的に反映させるとい う資産査定通達の趣旨を徹底させるものか否かが不明確であった。
また,9年事務 連絡は,一般取引先とは異なる関連ノンバンクに対する貸出金についての資産査定 の考え方を取りまとめたものであるが,その内容も具体的かつ定量的な基準を示し たものとはいえない上,前記追加Q&Aに反映はされていたものの,金融機関一般 には公表されていなかった。
- 12 - ウ4号実務指針については,具体的な計算の規定と計算例がないなど,これに 基づいた償却・引当額の計算が容易ではなく,また,資産分類(分類?〜?)につ いて触れた規定がなく,債務者区分,資産分類,引当金算定の関係が必ずしも明確 でないなど,結局,定性的な内容を示すにとどまり,資産査定に当たって定量的な 償却・引当の基準として機能し得るものとなっていなかった上,銀行の関連ノンバ ンク等に対する貸出金についてまでその対象とするものであれば,それまでの取扱 いからして,明確とされていてしかるべきところの,将来発生が見込まれる支援損 (支援に要する費用)につき引当を要するのか否かが明確にされていないなど(平 成11年4月の金融検査マニュアルにおいては,支援に伴い発生が見込まれる損失 見込額に相当する額を特定債務者支援引当金として計上することなどが定められる とともに,これを受けて4号実務指針も改正され,上記部分が明確にされた。
), 関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関してまで4号実務指針の 対象とすることを徹底して求めるものか否か必ずしも明らかでなかった。
エ加えて,資産査定通達等の目指す決算処理のために必要な措置と考えられて いた税効果会計(企業会計上の資産又は負債の金額と課税所得計算上の資産又は負 債の金額との間に差違がある場合において,当該差違に係る法人税等の金額を適切 に期間配分することにより,法人税等を控除する前の当期純利益の金額と法人税等 の金額を合理的に対応させることを目的とする会計処理)が導入されていなかった 本件当時においては,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準に 従って有税による貸出金の償却・引当を実施すると,その償却・引当額につき当期 利益が減少し,自己資本比率(BIS比率)の低下に直結して市場の信認を失い, 銀行経営が危たいにひんする可能性が多分にあった。
- 13 - オ以上のようなことから,平成10年3月期の決算に関して,多くの銀行で は,少なくとも関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関して,厳 格に資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準によるべきものとは 認識しておらず,現に長銀以外の同期の各銀行の会計処理の状況をみても,大手行 18行のうち14行は,長銀と同様,関連ノンバンク等に対する将来の支援予定額 については,引当金を計上しておらず,これを引当金として計上した銀行は4行に 過ぎなかった。
また,長銀及び株式会社D銀行の2行は要償却・引当額についての 自己査定結果と金融監督庁の金融検査結果とのかい離が特に大きかったものの,他 の大手行17行に関しても,総額1兆円以上にのぼる償却・引当不足が指摘されて いたことなどからすると,当時において,資産査定通達等によって補充される改正 後の決算経理基準は,その解釈,適用に相当の幅が生じるものであったといわざる を得ない。
(2) このように,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準 は,特に関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関しては,新たな 基準として直ちに適用するには,明確性に乏しかったと認められる上,本件当時, 関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関し,従来のいわゆる税法 基準の考え方による処理を排除して厳格に前記改正後の決算経理基準に従うべきこ とも必ずしも明確であったとはいえず,過渡的な状況にあったといえ,そのような 状況のもとでは,これまで「公正ナル会計慣行」として行われていた税法基準の考 え方によって関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定を行うことをも って,これが資産査定通達等の示す方向性から逸脱するものであったとしても,直 ちに違法であったということはできない。
- 14 - 5 そうすると,長銀の本件決算処理は「公正ナル会計慣行」に反する違法なも のとはいえないから,本件有価証券報告書の提出及び配当につき,被告人らに対 し,虚偽記載有価証券報告書提出罪及び違法配当罪の成立を認めた第1審判決及び これを是認した原判決は,事実を誤認して法令の解釈適用を誤ったものであって, 破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
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よって,刑訴法411条1号,3号により原判決及び第1審判決を破棄し,同法 413条ただし書,414条,404条,336条により被告人3名に対しいずれ も無罪の言渡しをすることとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決す る。
なお,裁判官古田佑紀の補足意見がある。
裁判官古田佑紀の補足意見は,次のとおりである。
私は,平成10年3月期における長銀の本件決算処理が,当時の会計処理の基準 からして直ちに違法とすることはできないとする法廷意見に与するものであるが, 以下の点を補足して述べておきたい。
本件は,当時,銀行の財務状態を悪化させる原因であるいわゆる不良債権の相当 部分を占めていた関連ノンバンク及びその不良担保の受皿となっていた会社など関 連ノンバンクと密接な業務上の関係を有する企業グループに対する貸付金等の評価 に関する事案である。
関連ノンバンクについては,母体行主義が存在していたため,母体行である銀行 は,自行の関連ノンバンクに対し,原則として積極的支援をすることが求められる 立場にあったと認められるところ,税法基準においては,積極的支援先に対する貸 付金には原則として回収不能と評価することはできないという考え方が取られてお り,この考え方からは,関連ノンバンクに対する貸付金を回収不能とすることは困 難であったと思われる。
本件当時,関連ノンバンクに対する貸付金の評価については,関連ノンバンクの 体力の有無,母体行責任を負う意思の有無等によって区分して評価することとした 9年事務連絡が発出され,これを反映した全国銀行協会連合会作成の追加Q&Aが 発表されているものの,同事務連絡自体は公表されておらず,内部文書にとどまっ ていることからすれば,これに金融機関を義務付けるような効果を認めることは困 難であり,また,その適用においても金融機関において相当の幅が生じることが予 想されるものであったと考えられる。
そうすると,本件における長銀の関連ノンバンク等に対する貸付金の査定基準 は,貸付先の客観的な財務状態を重視する資産査定通達の基本的な方向には合致し ないものであるとしても,法廷意見も指摘するとおり,母体行主義のもとにおける 関連ノンバンク等に対する貸出金についてこれまで採られていた資産査定方法を前 提とするような表現があるなど,少なくとも関連ノンバンクに関しては,同通達 上,税法基準の考え方による評価が許容されていると認められる余地がある以上, 当時として,その枠組みを直ちに違法とすることには困難がある。
もっとも,業績の深刻な悪化が続いている関連ノンバンクについて,積極的支援 先であることを理由として税法基準の考え方により貸付金を評価すれば,実態との かい離が大きくなることは明らかであると考えられ,長銀の本件決算は,その抱え る不良債権の実態と大きくかい離していたものと推認される。
このような決算処理 は,当時において,それが,直ちに違法とはいえず,また,バブル期以降の様々な 問題が集約して現れたものであったとしても,企業の財務状態をできる限り客観的 に表すべき企業会計の原則や企業の財務状態の透明性を確保することを目的とする 証券取引法における企業会計の開示制度の観点から見れば,大きな問題があったも のであることは明らかと思われる。
第3 免責法理としての「危険への接近の法理」の適用の有無(争点3)について 1 認定事実 前記前提事実及び括弧内の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
(1) 普天間飛行場の形成過程 ア米軍は,昭和20年4月に沖縄本島に上陸し,宜野湾村(当時。
以下同じ。
) の集落の一部を占領,接収し,その地域に普天間飛行場を建設した。
沖縄県は, 終戦後,アメリカ合衆国が施政権者とされることとなったため,普天間飛行場 も,米軍の接収下にあり,また,アメリカ合衆国が施政権者として管理,運営 していた。
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